
ぼくが個人事業主になったのは18歳のときでした。
自分で仕事をつくりたいと思ったのは日本一周の旅をしていた17歳のときでした。
理由は何個もあって、たしか一番最初の動機は自由になりたいだったかと思います。
いまも十分に若い自分ですが、さらに若くて痛々しい時期でした。
そのあとも就職する以前に自分の責任で仕事をするという経験をしておくことでゆくゆく有利になるからとか、責任とか身動きをとりにくくなることに苦手意識があるからとか、なにかと思いつく理由があって個人事業主になっていました。
そして書店も開いて早5ヶ月。

いままでは気づかなかったのですが、本当は自分にアイデンティティがたまらなくほしかったのかもしれないという発見をしたのです。
気づいてしまうと「ああ、ほんとその通りじゃん」と笑ってしまいました。
ありのままの自分で愛される自信がなくって、人と違う価値をつけないと、人に認めてもらえることをしないと、「面白いね」と興味を持ってもらえることをしないとぼくは生きていて良いのかわからなかった。
大人の方には「そんな気持ちで仕事してんじゃねぇよ」と怒られてしまうかもしれません。
いまのぼくも少しそう思います。
それでも、どうしようもなかったりもして。
他の記事で書いたこともあるのですが、生きてきた環境の中であまり愛された実感や、ここに居ていいと思えた瞬間がありませんでした。事実は違ったのかもしれませんが、実感としてはそうでした。
愛されるためには自分がすごくないといけないと”勝手に”思い込んでいました。
いい成績をとっていないと、社会的価値を生み出していないと、人と違う才能をもっていないと愛されるわけがないとずっと思っていました。別に誰かにそう言われたわけでもないのに。
そして無償の愛なんてものがないことも知っていながら。
色々と思い込んで生きてきたぼくに去年はじめて愛されているという実感を感じる瞬間があったりしました。
20歳になったときには親とお酒を呑みながら、これまで言いたくても言えなかったこと真剣に話して、前より仲良くなったりしました。
十何年ものあいだ抱え込んできたものを吐き出して心にあった不信や憎しみが減ったのです。心がパッと晴れているわけではないのだけれど、じんわりと晴れやかな気持ちになりました。
そしてお仕事の方でも、「選んでもらった本がいまの自分に必要な本でした」と言っていただくことが増えたのです。
誰かの役に立てていることが心から誇らしくて嬉しくて、なんかもう自分のすごさを認めさせるために仕事をしなくてもいいかもしれないと思いました。

むしろ、そんな気持ちで仕事をしていたことを申し訳なく感じました。
ごめんなさい。
そして、それでもクソガキな自分のことを素敵だと褒めてくださったり助けてくださった方には逆立ちの状態から前転して土下座して感謝の句を述べたいほどに感謝しています。ありがとうございます。
ダメダメな人間ですが、ただで転ぶほどのお人よしでもありません。ちゃんと成長するのでそれなりに長い目で見ていただけると嬉しいです。
これからは以前よりフラットな心持ちでお仕事に取り組んでまいります。
くさタイプとかみずタイプとかあるよね
そして、好きなことを仕事にするとかやりたいことを仕事にするべきという価値観も変化してきました。
高校を辞めた3年前は「好きなことを仕事にしよう」という波が丁度ノッてきたころで、ぼくも「好きなことを仕事にしたい」といわゆる自分探しのようなことに有り余るエネルギーを全力で消費してやっていました。
この3年間、好きなことを仕事にすると意気込んできましたが、なんと自分は好きなことのために仕事を頑張る方がイキイキとしてなおかつ結果も伴うという発見をしてしまったのです(家に帰ってゲームがしたいとか)。
本に関する仕事はもちろん嫌いじゃないです。本を選んだり、本のある空間をつくることは自分にとって大事にしたいと思えるお仕事です。
ですが、それをただ「すきすきだいすき」と言ってできるかというとそうではなくて。ぼくに頼んでくださった方に喜んでほしいし、そこに対するプレッシャーもあります。
なので、「好きだから」「楽しいから」だけでできることではないことを知りました。
楽しいだけじゃないというか、つらいと感じることの方が多いです。何度キレイなお姉さんのヒモになりたいと思ったことか。
気持ちを落ち着かせるために、お風呂場で頭からコーヒーかぶってmorohaを聴いていた夜がいまでは良い思い出です。
ぼくは仕事とは別に全力で楽しめることやリラックスできること、外部からの情報が大幅に遮断された時間を持つことが大事なタイプでした。「趣味も好きなことも仕事にしてガンガンいこうぜ」は性に合いませんでした。

社会ではどうしても力があって声の大きい人の言葉が良く響き、魅力的に映ります。けれど、そういう方は元々身体が丈夫だったりエネルギー量が普通の人より多かったりなにかと自分とは異なるタイプな場合があるようです。
みずタイプがほのおタイプのマネをしても、しけったひのこしか出せないのと遠からずなように。
自分はどういうときに力を発揮できて、なにに弱くて、なにを大切にしているのか、当たり前すぎて意識しないけれど、自分はどんなタイプなのかを知っておくことは、生きやすさに繋がるのだと知りました。
あ、でも、つらいつらいと言いながらもやっている本にまつわるお仕事はけっこう好きです。いつもありがとうございます。
暑い日差しが続いていますが、心身ともにバテないよう気をつけながら夏を楽しみましょう。
2019.8.11. トドブックス代表 村松徳馬
写真: Niiya Hayato