
熱海に住みはじめて一年が過ぎました。
二年前に日本をひととおり一周して、一番気に入ったのが熱海だったのでそのまま流れ着くように住みついたのがはじまりです。
先日一週間ほど熱海から離れる機会があったのですが、帰ってきたときに熱海の土地の匂いを懐かしく感じる瞬間がありました。
ぼくにとっての故郷の定義はその土地に帰ったときにその土地の匂いを懐かしいと思うかどうかです。だから、ようやく熱海が自分にとっての故郷のひとつになった気がしたのです。
それがなんか嬉しくって、今回は熱海での暮らしのことを書かせてもらおうかと思います。
日常に温泉のある暮らし
熱海に来てから一回引っ越しをしていて、最初はお店をやっている場所の上に住んでいました。

今年に入って移動をしたので、いまはお店から歩ける距離のマンションに住んでいます。
このマンションがリゾートマンションというやつで、共用の温泉大浴場がついてます。神です。
ついでにサウナとトレーニングルームもあります。神です。
去年は基本シャワーだったのでかなり嬉しい。
この設備に毎日海が見える部屋がついても、東京で一人暮らしをするよりも安く暮らせるところがそこそこあります。他の温泉街と比べると少々お高いのですが。
仕事が終わってから海辺をランニングして温泉に入ると「フハァー」ってなります。風呂上りの牛乳とか、風呂上がりの日本酒の幸福度が増加します。
困ったことに温泉でないと物足りなくなります。
みんなどうして引退してから温泉地に住むのだろうと思っていたのですが、引退してからじゃないともう前の生活には戻りたくなくなるからではないかと最近は考えています。快適です。
歩いて行ける距離に海がある幸せ
これが温泉と同じくらい幸せなんですけど、友達とかと夜に「ちょっと海行こうぜ」って言って海に行けちゃうんです。
海辺でコーヒー飲んだりしながらだらだら話すのっていい時間じゃないですか。
その瞬間が好きで熱海に住んでいたりします。

「食」の面はどうなのか
普段の食事は自炊しているので、食生活についても少し。
熱海は中心街の方に大きなスーパーがひとつあって、駅の方に新鮮な野菜を売っているところが二ヵ所、伊豆山の方面に八百屋、肉屋とかなりおいしい魚屋が三店舗並んであります。

熱海はお魚がおいしいと言われることもありますが個人的には、お店によってピンキリです。おいしいところはおいしいし、そうでないところはそうでないのでそこらへんは東京と大差ないです。東京の方がクオリティの高いお店がたくさんありますが、熱海で食べるというシチュエーションの影響は加算されると思います。
ぼくがよくお世話になっている魚屋さんはいつ行ってもいい魚を仕入れていて、ひと手間加えたような物もセンスが良くて魅力的です。
飲食店も、それほど高くない値段で素敵なお寿司屋さんとか、日本酒が比較的充実している干物屋さんとか、探すといいお店が色々あります。
あとは遅くまで営業している定食も出すしっぽりとした居酒屋が駅の近くにあればカンペキなんです(どなたか作ってください、需要があります)。
リゾートマンションの小ネタ
昔、江戸時代とかは公衆浴場が当たり前だったと思うんですけど、リゾートマンションは同じマンションに住んでいる人が同じ浴場を使う場合が多いので、昔みたいに人と人の距離が近い感じがします。
すれ違うときはよくあいさつするし(これはどこでもそうですね)、ただ同じマンションに住んでいるというだけでほぼ毎日同じ風呂に入るのがぼくには新鮮でした。

あと、なんか風呂に入るときと出るときに声掛けがあるんですよ。
最初のころは全然わからなくて、なんかおじいさんが「うおーう」とか「あーばーばー」みたいに言ってるなぁって(笑)
よくよく聞いてみると、入るときは「こんばんはー」と言っていて、出るときは「お先にあがりまーす」と言っていました。
歳を経るごとにあいさつの発音が省略されていき、原形を保たなくなっていく模様です。
引っ越してからの一ヶ月は人見知りも発揮してあんまりあいさつできなかったんですけど、いまでは馴染んできておじいさんたちに倣ってちょっと崩してあいさつをしています。
新居に移り住んで四ヶ月が経ったいまでは、ただ同じマンションに住んでいるだけなのに毎日一緒に同じ風呂に入っていることが人間は共同体で生きているという事実を再認識しているようで楽しいです。
さいごに
ぼくが熱海を気に入っている理由は様々なんですけど、あんまり言葉では伝えられないです。
なんかこう、ぐちゃぐちゃできらきらでさらさらで青色なところが好きなんです。

(バカっぽいですね)
もちろん、都心からほど近くて交通網が発達してる温泉地のため今後の働き方の変化によって発展がのぞめる点、海と山のあいだで風通しが良い点、スタイリッシュでもなければ引くほどダサいわけでもない点、開放感と面倒くささが同居してる点、ネコが通るような細道が多くて楽しい点、色々言葉をあてがおうとすればできます。
でも別に、だから好きってわけじゃなくて。
あなたの髪がきれいだから好きじゃなくて、あなたが好きだからその黒くて長い髪をきれいに思うって感じでいたいんです。
その方がちょっと気楽じゃないですか。
仮にお金持ちのあなたが好きだとしたら、お金のないあなたに興味はないってなるし、
優しいあなたが好きだとしたら、いずれは「優しすぎて物足りない」とか「優柔不断でうざい」になってしまう。
あなたが好きだからその優しさが嬉しいスタイルだと、あなたが好きだからその靴下を脱ぎすてるクセも月に3回くらいならば我慢してやる、みたいに気持ち穏やかになると思うんです(ならないな)。
言うときの気持ちの問題なんですけどね。好きなところを言葉にしすぎると嫌いになりそうでこわい。
たまたま熱海の駅を降りたら「ここがいいなー」って思ったのでそれ以来住んでます。
ぼくは熱海が好きなので、気が向いたら遊びに来てください。
2019.7.8. トドブックス代表 村松徳馬
写真:大瀧 洋之